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2010/08/26
映画のタイトルの特徴(原題・邦題の比較から見る)その3 <糸山 昌己>


今まで、2回にわたって映画のタイトルの原題と日本語タイトルの付け方につて論じてきました。今回は、この夏公開中の映画をいくつか取り上げて、そのタイトルの付け方を見ていきたいと思います。

※過去2回については、こちらからどうぞ→その1その2


1.『ヒックとドラゴン』

この映画はイギリスの作家、クレシッダ・コーウェルによる児童文学のシリーズが原作で、少年ヒックとドラゴンの出会いと友情を描いたファンタジックなアニメーション映画です。この日本語タイトルは、原題をそのままカタカナ表記したように思われるかもしれませんが、How to Train Your Dragonが原題です。原題を直訳すると「あなたのドラゴンを調教する方法」となり、日本語タイトルとは全く違ったものになります。実はこの原作の児童文学は日本語版があり、その本のタイトルが『ヒックとドラゴン』となっています。おそらく、この翻訳本のタイトルをそのまま映画でも使用したものだと思われます。主人公の少年ヒックとドラゴンの物語ですから、翻訳本のタイトルが『ヒックとドラゴン』となるのも自然なことに思えます。なお、主人公の少年ヒックはHiccup、また、ヒックが出会うドラゴンはトゥースと訳されていますが、実は原作ではToothless(「歯無し」)[トゥースレス]となっています。Toothlessですから文字通り、「歯が無い」ということで、この名前はドラゴンの特徴である歯(牙)が無いところから、ヒックが名付けたものです。でも、トゥースレスだとちょっと音的にも語感的にもあまり良くないので、意味が違ってきますが「レス」をとって「トゥース」にしたものだと思われます。

2.『ベスト・キッド』

この夏公開中のジャッキー・チェン主演の『ベスト・キッド』は、1984年に製作されたアメリカ映画、空手を通して少年の成長を描いた大ヒットシリーズ『ベスト・キッド』のリメイク版です。日本語タイトルから、原題はBest Kid、あるいは、日本語タイトルには定冠詞「ザ(the)」が省略されていることがあるのでThe Best Kidが原題のはずだと思われるかもしれません。しかし、1984年に製作された『ベスト・キッド』も、この夏公開中の『ベスト・キッド』も原題はThe Karate Kidで、少年が日系人に教えてもらった空手を通して成長していく少年を描いた映画の内容に合った原題となっているわけです。カラテ・キッドでも良さそうですが、ベスト(best: 【形】最高の、最も良い、最上の、誰にも引けを取らない)という日本人ならほぼ誰でも知っていると思われる語を使い、ベスト・キッドになったものだと思われます。なお、ジャッキー・チェンが少年に教えるのは空手ではなく、カンフーです。これと同じようなタイトルの付け方として『ワイルド・ガール』(原題:Wild Child)があります。この映画は16歳の少女が主人公ですので、Child(子ども、チャイルド)でも良さそうですが、日本語でチャイルドだと「子ども、幼児、児童」というように捉えられそうですので、Girl(少女、ガール)になったものだと思われます。実際、ワイルド・チャイルドとワイルド・ガールではイメージされるものがだいぶ違うように思えませんか?(例えば、ワイルド・チャイルドだと「男の子」というようなイメージが出てきませんか?)

3.『魔法使いの弟子』

現代のニューヨークで、800年にもわたって繰り広げられてきた魔法大戦争が勃発。魔法使い・バルサザールは、悪の勢力を滅ぼすため、いまは亡き魔法使いの最高指導者・マーリンの後継者を探し続け、ついに発見したデイヴに魔術の技と美学を彼に叩き込もうとするアクション・アドベンチャー映画です。原題はThe Sorcerer's Apprenticeです。sorcerer(【名】魔術師、魔法使い)、apprentice(【名】見習い、初心者、実習生、徒弟、弟子)ですので、この日本語タイトルは原題をそのまま日本語に訳したものになっています。同じようなものに、『第9地区』(原題:District 9)[district【名】(行政などの目的で区分された)地区、地方、区域、地域、地帯]があります。

4.『ソルト』

アンジェリーナ・ジョリー主演のスパイ・アクション映画です。原題はSaltで、主人公のCIA職員のイブリン・ソルトを指しています。原題の英語の読みをそのままカタカナ表記にしただけです。同じようなものに、『トイ・ストーリー3』(原題:Toy Story 3)、『インセプション』(原題:inception)、『アイアンマン2』(原題:Iron Man 2)、『フローズン』(原題:Frozen)などがあります。

5.『セラフィーヌの庭』

セラフィーヌとは、アンリ・ルソーに代表される素朴(ナイーブ)派の女流画家、セラフィーヌ・ルイのことで、この映画はこの女流画家セラフィーヌと彼女を支え続けた画商ヴェルヘルム・ウーデの心の交流を描いた感動作です。原題はSeraphineですので、この主人公の名前そのものになっているわけです。4で挙げた『ソルト』(原題:Salt)などのように主人公の名前そのものをタイトルにするパターンは多く、この映画の場合にも原題そのままに『セラフィーヌ』にしても良かったはずです。しかし、原題にない「庭」を入れ、しかも、主人公『セラフィーヌ』という「人」から『セラフィーヌの庭』というように『庭』という「場(所)」(背景)に視点を変えた表現になっています。主人公セラフィーヌは、貧しく、孤独に暮らしています。草木に話しかけ、動物の血や植物などから絵の具を手作りし、独学で絵を描いてきました。そのような彼女を支え、育ててきた自然豊かな『庭』に視点をおいたタイトル付けになっているわけです。実際、彼女が描くのは、花や草、果物などです。このようなことから単に原題のように『セラフィーヌ』とはせず、『セラフィーヌの庭』にしたのもだと思われます。四季の移り変わりを味わう「日本人」の琴線に触れるタイトル付けになっているのかもしれません。実際、『セラフィーヌ』と『セラフィーヌの庭』とでは映画に対するイメージにはかなり違ったものになると思われませんか?

いとやま まさみ(英語・英語学担当 教授)



 
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